死地帝国記
 

第四話「陛下、ゲイトをいじる」

帝暦1301年7月15日。今日は給料支給の日であり、僕の初の給与が支払われる予定の日である!のだが……。
昨日二人にやられたせいで絶賛入院中である……。

「えぇ……この私がただの怪我だけで終わるなんて……」
「陛下の命令とはいえ流石にあれはどうかと思いましたよ〜」
「だから言ったでしょう。あれぐらいじゃ俺は殺せないと!」
「はいはい、わかりました。わかったので早く退院しましょう。皇帝命令です。」
「ちッ……仕方ねぇな。」

ゲイトはしぶしぶながら病院から出て帝国騎士訓練所へ向かった。

帝国騎士団訓練場

「ゲイト様がいらっしゃいましたァ!!!」
「ゲイト様が来たぞォォオオ!!」
「ゲイト様ァアアアアアアッ!」
「「「ゲイトさまぁあああ!!こっち向いてくれェエエッ!」」」
「「「ゲイトさん!握手してくれませんかね〜?」」」
「「ゲイト隊長ぉおおおっ!サインくだせぇ!」」

「うるさい。黙らんかい!これから特別休暇明けの騎士たちの初仕事があるんだから静かにせんか!」

「「はひぃいい」」
「申し訳ありませんゲイト様ぁあ!」
「「すんませえんゲイト殿ぉお!」」

ゲイトが中に入ると帝国騎士たちが集まってきた。
(うむうむ、やはり皆に慕われるのは気持ちが良いなぁ!(ドヤァ)

「うむ、許そう。では、これより訓練を始める。」
「「はっ!」」
「今回は今までよりも厳しい訓練を受けてもらう。心してかかれ。」
「「ははぁあっ!」」

それから2時間後

「ふぅううう……よし、もう良いだろう。これで本日の鍛錬は終了とする。解散だ。各自体を休めて英気を養うように。以上だ。」
「「ははぁぁぁぁぁぁぁあ!!!ありがとうございましたぁあぁあぁあ!!うへっうへっうへぇ……グフゥ!?」
「おい、貴公大丈夫か?吐血するほどとは一体どんな無茶をさせたのだ?」

倒れた帝国兵に駆け寄るゲイトだが……。

「いえ、ちょっといつもよりハードすぎただけで……」

ガクッ……。

はぁ……。まったく困ったものなのだ……。これくらいの訓練で倒れていてはこの先もたぬぞ……。
ゲイトはため息をつきながらも自室へ戻り始めた。

部屋に戻るとベッドに腰掛けて懐に入れていた物を取り出した。
それは父上から譲り受けた白い光を放つ鉱石だった。
これは皇帝一族の者のみが持つことができる『神代宝玉』と呼ばれる鉱石である。

普段は宝石のように美しいのだが、ゲイトはこれが壊れている事を知っていた。これを直す事ができるのは皇帝陛下だけであった。
ゲイトはその輝きを見て過去を思い出していた。
そしてその美しさに目を奪われていることに気が付き、慌てて目を閉じ、深呼吸をする。

すると、部屋のドアがノックされた。
コン、コ、ココ、トン、カチャリ

「誰だ。入れ。」

ガチャ。

「失礼するぞ!。ゲイト!」

シグマさんが入って来たようですね。まあいつものことなので驚きはしませんが……。それにしても何で私の部屋に勝手に入ってくるんですかね。

「なんですかー。私今忙しいんですよー。」
「ハハッ、そんなことは知っているんだぞ。我と久しぶりに手合わせでもしないか?」
「嫌ですよ。めんどくさい。」
「相変わらず冷たいなぁゲイト。せっかく我がここまで来てやったんだぞ?こんなにも哀れで可憐で健気に愛らしいゲイトのことが心配でわざわざ見舞いに来てやったんだぞ……」
「嘘つかないでくださいよ。貴方が他人のことなんかで動くわけないでしょう。」
「ははっ、バレちゃったんだぞ。実は少しだけ暇なんだ!」
「え、意外……。もっと仕事がいっぱいあるのかと思っていました……。」

この人の仕事量は尋常じゃないはずなんだけど……。まさかこの人が仕事をサボるなんて……。明日雪でも降るんじゃないかな……。

「……まあ、確かに今はそこまでやる事がないのだ……。帝国は今安定期だからな……。帝国騎士達には休みを与えなければダメってソラヴィス殿下に叱られちゃったんだぞ!」
「なるほど。それで手が空いて時間が有り余ってると?」
「そうなんだぞ!だから我に構うのだ!」
「いやです。邪魔しないなら好きにしててください。私は読書したいので。」

そう言って本を読み始めると後ろから抱きつかれた。

「ひゃうっ!?ちょ、止めろ!暑苦しい!」
「ねぇねえ遊ぼう〜ゲイト〜♪」
「鬱陶しい!離れろ!」
「わぁ〜ん!ゲイト〜!我と遊べなんだぞ〜!」
「うるさい!あと重い!」……………………………… しばらくして……
「ふぅう。ようやく離れて下さいましたか……。」
「だってゲイトが無視してくるんだぞ……。」
「当たり前だ!仕事しなさい!全く、いくら私が皇族とはいえ、もう少し敬意というものを持って欲しいものだ!」
「あぁん!怒らないでほしいのだぁぁあ!可愛い顔が台無しになってしまうぞぉお!」
「かわっ!?か、かわいいとか言うな!!」

ああもう!どうしたらいいんだよ!この人は!

「うっうっうっうっうっうっうっうっうっうっうっうっうっうっうっうっうっうっうっう……うぇぇぇえん」(棒)
「うあっ……。そ、それはズルいだろ……ううぅ……」

ゲイトは泣き出してしまったシグマを慰め始めた。

数分後……

「……もう落ち着いたか?全く、泣いている場合ではないぞ。」
「うっうっうっうっうっうっうっうっうっうっうっうっうっうっ……。」(棒)
「まったく、ほら、今日は好きなお菓子を作ってやるぞ?」
「本当なのか?」
「ああ、本当にしてみせるぞ。」
「じゃあお肉が良いのだぞ。」
「わかった。たくさん作ろう。」
「楽しみなのだぞー。」
「はい。期待していてください。」
……それから数日、私は父さんと毎日一緒に過ごした。……そしてとうとうその時が来た。

コンコンコン

「失礼します。陛下。私めにご報告があるとのことなのですが……」
「おお、ゲイト。お前に用事がある。こっちへ来てくれ。」
「はい。」
「実はな、帝国騎士団の団長であるゲイトに頼みたいことがある。魔族領にあるとある村に行ってもらえないだろうか?」
「……?わかりました。どんな要件でしょうか?それだけでは分かりません。一体どのような事ですか?」
「あ、ああいや、それがだな……。まだ言えない。だが、いずれわかるだろう。」
「は、はい。了解致しました。

……陛下、一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「うん?良いとも。なんでも聞いてくれ。」
「ありがとうございます。」
「うむ。」

「私はいつ帝国騎士団の団長に任命されたのでしょうか?確かに教官には任命されましたが、団長に任命された覚えがございません。」

「……。」
「いえ、別に咎めるつもりはないのです。ただ疑問だっただけですので……」
「そうか……。そうだよな……」
「はい?すみません、今なんとおっしゃったので?聞こえませんでした。もう一度お願いできますか?」

「…………ああ、もちろんだとも。ゲイトに新しい任務を与える。その村に、行くのだ。」

「陛下?まさかですが、現在進行形でごまかそうとしていませんよね?」
「そ、そそ、そんなわけないぞ!?」

……やっぱり。そういうことか。

「はぁあ……どうして任命されたことを隠したのか説明をいただけますね?」……しばらく経って…… 陛下は観念して口を開いた。
「じ、じつはだな……。最近帝国が安定してきてな。皇帝の仕事が結構暇になってしまったのだ。それで、仕事を増やそうとしたのだが……。」
「何か思いつかなくて、その結果私に白羽の矢を立てたと?」
「うっ、ま、まぁ、簡単に言えばそうなるかなぁ……。」
「はぁぁぁ〜〜〜〜〜」
「うぅううう……すまぬゲイト、頼むから許してくれぇえ……」
「はぁぁぁ〜〜〜〜〜〜……」

……数分後……

「……ゲイト。」
「はい、何でしょう?」
「これは命令だ。行ってくれるか?」

……くそ!卑怯だぞそれは!こんな顔をされたら断れないじゃないか!

「………………承知……致しまし……た……。」
「!ほ、本当か!?良かったぁあ……。断られたらどうしようかと思ったぞ!」

……まったくこの人は!こういうところが本当にずるいなぁ。私の弱いところを突いてくるんだもんなぁ…… はぁぁ……また振り回される日々が始まると思うと憂鬱だよぉぉおおお!!!

「さて、準備を整えたら早速向かってくれないか?」
「はい?どこにでしょうか?」
「ああ、その村はな、マオウ村というらしい。そこには魔王がいるとかいないとか。とりあえず行ってこい。」

……へっ?ちょ待ってどういう事だってばよ!

「では、頼んだよ。ゲイト。」

「あ、えっと……。陛下?ふざけています?」
「wwwwwちょっと言ってみただけだぞ?」

……………….マジかい(絶望)

「もしかしなくてもバカにしています?」
「バレてしまったかw」

……ふざっけんなぁああああああ!!! 私は部屋を飛び出し、父さんの執務室に向かって走る。

「あっちょどこ行くのだゲイトよ!」



――宰相執務室

ゴンゴンゴン!

「父さま!少々お時間よろしいでしょうか!」

「あ、ああ。ゲイト、慌ててどうしたんだい?」
「失礼します!」ガチャン!

「うおっびっくりした!いきなりドアを開けるなゲイトよ。」
「申し訳ありません。急を要するため、失礼します。」
「ん?一体なんだ?」

「陛下に関する事なのですが、ご存知ですか?」
「?いいや、知らないけど……」
「そう、ですよねぇ……」
「は、はは……。ゲイト?どうしてそんなに汗をかく必要があるのかな??……ど、どうかしたの?」

……嫌な予感がする。とてもすごく。

「実はですね……。帝国騎士団の団長に任命されまして……。」
「……え?いやいやいやいや、嘘だろ?お前まだ19歳だろう?早すぎるぞ?それとも俺の息子は天才なのか?いやでも流石に……?」

……混乱しているようだな。無理もない。

「陛下から勅命を受けました。魔族領にあるマオウ村に魔王がいる噂があるから行けとの事です。」
「あー……はい?冗談でしょ?……ゲイト、本気で言っているの?」

「私の事をからかったり馬鹿にしていたようなのです!父さま!どう思われます!?」
「ああ、うん。そりゃ陛下が悪いわ……」
「でしたら!陛下にきつく言ってください!そんなしょーもないことで仕事を増やすんじゃねえええええ!!!って!」
「ああ分かった。必ず伝えておくよ。あとはもう下がって良い。」
「はい!よろしくお願いいたします!ではこれで!」

バタンッ

「はぁぁあ……厄介ごとは勘弁して欲しいものだなぁ……。」
……まったく。陛下はどれだけ私を悩ませれば気が済むのだろうか……?

「……」スタスタ
ガチャッ バタン