死地帝国記
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第三話「イグナス、ゲイトにキレる」
「ゲイト無事カ?いきなり襲わレテ大変だったナ……」
「いえ!全然平気ですよ!むしろ楽しいくらいです!ありがとうございます!」
「ソウカ……。ところでどうして街にいたノカネ……?」
「あっ……(しまった……つい癖で出てきちゃったけど、今ソラヴィス様の養子だから護衛つけないといけなかったんだった……)」
「……まさかまた本音が出てるんじゃないだろうネ……?」
……ぎくり……。
「……いやあ、そのぉ〜……。実は買い物がしたかったんですよね……。私まだこっちの世界に来てから一回しか街に行ってないんです。それで色々回ってみたいなと思いまして……」
「そうなのカ。では明日にシテ今日は休むといい。我の元に来ルのだ。」
「は、はい。分かりました。」
「うむ。それトもう一つ聞きたいことがあるのだが、良いカナ?……オ前の護衛ハどこにおるのダ?」
「……?私のですか……?ここにおりますが……?」
そう言いながらゲイトは不思議そうに自分の顔を指差す。
「そうではないワケガ無いだろう!?シグマの事ダ!貴様にはシグマが付いているはずなのだガ!?なぜシグマがいないのカイ!?」
「……言われてみれば確かにいない気がします。……おかしいですね、ちゃんと付いて来てるように思ったのですが。さすがに途中で帰ったとかはないでしょうし、いったいどこに行ったのやら……心配になってきてしまいますよほんとうにもぅ……。探してきましょうかね。」
「ソ、ソウダナ。それが良イかもしれナイ。頼んでも良いかナ……?」
……ふム、やはり様子が変だゾ……?何か隠し事をしているような雰囲気を感じるが、何を隠しているのか分からヌ。……まあいいか。そんなことよりも、今はゲイトを家まで送らないト。
「はい。了解しました。じゃあそろそろ帰ります。お疲れ様でした。」
「おーい、ゲーイートー!!」
「げ!」
シグマさんがこっち向かいながら手を振ってくる。
「……おイゲイト。これはドウいうことかナ?」
「……すいません。ちょっとふざけすぎたようでして。ははは。えっと、怒られるのは嫌なので先に謝っておきます。ごめんなさい。あと、助けてください。お願いします。何でもするので。この通りです。許してもらえれば嬉しいなぁという気持ちを込めて土下座でもなんでもいたしますので。どうか怒りを鎮めていただけると助かります!!」
「ほウ。そこまで言うのなら仕方がない。今回は大目に見ヨウ。今回だけだゾ。次は無いと思った方が良い。分かったな。分カッタラ早く顔を上げ給エ。周りの目が痛すぎるのダ。とても恥ずかしイ。頼むカラ止めてくれないかナ。」
「は、はいっ!承知致しました!あ、ありがとうございます!では失礼します。(あぁ……良かったぁ。なんとかなったみたいだよ。)」
走って帝国城に帰ろうとするとイグナス様に襟首をつかまれた。
(ぐぇっ。)
「ナゼ一人で帰ろうとするノダ?」
「……いえ、特に深い意味はありませんが。……あっ、そういう事ですか。なるほど。それは申し訳ありませんでした。私とした事が。なんたる失態……。それでは今度こそ行ってまいります。」
「どうしてそうナル。我はシグマと帰れと言っておるノダ!」
「……あはは。私は別に大丈夫ですよ。」
「マッタク、だからそうではなくてダネ……もういいヨ。一緒に帰るぞ。……おい、シグマ。お前ガキつれて帰ルから一緒に来る良イ。ゲイト、久しぶりに話ヲしようカ。」
「あ、は、はい。わかりました……」
「んじゃ帰るかー」
(うわ……。やっぱり怒ってる……。どうするかな……。護衛つけずに一人行って襲撃受けたことをソラヴィス様に言わないといけなくなるんだよねぇ……。はぁ……。気が重い……。でも、しょうがないし頑張ろう……。ソラヴィス様が怒った時が一番怖いし……)
イグナスを怒らせたゲイトは襟首をつかまれたまま帝国城のソラヴィスのもとにドナドナされた。
「ただいま戻りマシタ」
「おお、帰ったかイグナス。ゲイトは無事連れて来たようだし、ちょうど良い頃合いだな。」
「ハイ。あの、ソラヴィス様、ゲイトの奴がデスネ、先程1人で護衛もツケズ勝手に街に買い物行っていたようデス。また襲撃モ受けていたヨウデ我が助けに入りマシタ。それでゲイトにどうしてここにイタノカ尋ねたらナント虚偽報告したのデス!……現状報告はこんな感じデス。」
「うむ、わかった。ゲイトよ…….なぜ嘘をついた?正直に言え。」
「ひぃ……すみませんソラヴィス様……実は……そのぉ……本当に魔装族が攻めてきたと思いましてですね。そしてもし帝国の危機だった場合皇帝陛下をお守りしようと思い一人で出て行った次第です。はい。反省しております。以後気を付けますのでどうかご慈悲を!……うぅ……グスッヒック、怖かったですぅ~!!助けてくださいソラヴィスさまぁ!!!」(大号泣&ソラヴィスに抱き着く)
「よしよし、よく頑張ったな。偉いぞ。安心しろ。我らが帝国は絶対に負けぬ。それに敵襲があったとしても我らがいる限り心配は要らぬ。それと、一人で出たのは良くなかったな。
……とでもいうと思ったか?」
「ひっ!」
「ふふふ……私にそんな嘘をつくとは……相応の覚悟はできてるよな?」
「……っ、ま、まさか!?お許しください!ソラヴィス様には絶対に逆らわないのでどうかご勘弁を……!!!」(全力土下座)
「はぁ、イグナスにシグマ。少し外せ。二人きりにしてくれ。」
「承知シマシタ。シグマ行こうカ。」
「了解なのだ!」
「これで邪魔者は消えたな。ゲイト、ちょっとこっちに来てくれ。」
(手招きしてる。あれは絶対嫌がったらいけなさそうなやつだよねぇ。)
「はい……」
「ん。ではそこに座ってくれるか。まずは怪我の治療からだ。『ハイヒール』」
傷だらけの腕と脚の切り口がみみるうちに塞がっていく。
「……凄いなぁ」
「まったくお前ってやつは……。なぜ約束も守れんのだ。私がどれだけ心配したと思っているんだ……。」
ソラヴィスはゲイトを優しく腕で包み込むように抱きしめる。
「……そっかぁ……そこまで心配してくれたのかぁ。なんか嬉しいかも……」
(ソラヴィス様……)
「当たり前だろう……大事な家族なんだから……私の命令が聞けないなら今ここで首輪をつけて奴隷にしてやってもいいのだが?」
「うわ……それはヤダ……。はは……冗談きついですよー」
(怖いなぁこの人……ん?)
ソラヴィスが涙目になっているのが見える。
「頼むからもう危険なことはしないでくれ……心配したのだから……」
「はい。申し訳ありませんでした。これからはもっと強くなって必ずソラヴィス様のお役に立てるようになりたいと思います。」
「あ、ああ。期待しているぞ……とりあえず執務室に戻るか。そろそろ呼び戻してやらないとな。」
「わかりました」
こうして二人は何事もなかったかのように元の生活に戻っていった。
「全く……危ないことをして……。次は無いと思って行動するように。それで、街にはどう行っていたんだ?」
「えっと、帝国城の検問を通って街に行きました。」
「……ゲイトが通った門は西第14門か。ちょっと粛清してくるから大人しくここで待ってなさい。いいね?」
いい笑顔でソラヴィス様はそう言った。目は笑ってなかったけど……。
「はいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」(恐怖のあまり白目をむいて気絶するゲイト)
その後分かったことだが、当時西第14門を担当していた門番は公式発表では行方不明に扱いとなったらしい。しかし実際には、ソラヴィスによりボコられ、拘束されて、地下牢に閉じ込められていたようだ。
また、ゲイトが一人で外出したことを咎めるものはいなかった。なぜならソラヴィスによりその事案は『無かった事』にされたからであった。
帝暦1301年7月14日。
今日は待ちにまった給料支給の日の前日である。そして僕にとっては初めての給与日でもある!僕は興奮しながら皇帝陛下に呼ばれて謁見の間に来ていた。
「ゲイトよ。明日の昼飯時を楽しみにしているが良い。さっそくではあるが本題に入る。お主を我が軍の新兵訓練教官に任命することにした。そこでだ、明日から10日間ほど帝国の誇る最強の兵士たちに稽古をつけてもらいながら基礎体力の向上を図るつもりなのでよろしく頼んだ。まぁ、気楽に行って来い」
「はい、承知いたしました!」
(皇帝直々の命を断るわけにもいかないし、ここは素直に従っておこうか。)
「それと、これは皇帝命令である!!しっかりと帝国のために働くがよい!」
「はは、かしこまりました!」(皇帝直属の部下になるのも悪くないかもな〜)
そんなことを考えているといつの間にかいなくなっていたソラヴィスが帰ってきた。
「ソラヴィス様?どちらへ行ってらっしゃったんですか?」
「ん。ちょっくら四天王たちと食事会をしてきただけだ」
「ふぅ~ん。そぉですか。」
一瞬で空気が変わる。なぜだろう……
(まさか私をハブって食事会とは……これは仕返し決定ですね。)
「……」
「まぁ、そういうことだ。私はいつも通りデスクワークでもしてるから好きに遊んでこい。ただし外に行くときはシグマを護衛に連れて行くように。」
「はい!ありがとうございます!」
「じゃあな」
(うわぁぁい♪)
ゲイトはスキップをしながら自室に帰って行った。
「おい、イグナス、シグマ、ゲイトを止めろ」
アルヴィエはゲイトの考えてることを察知してすぐに指示を出した。
「イエス、ユアマジェスティ」「了解なのだ!」
「ははは、相変わらず元気で可愛い奴め」(暢気)
(どんな仕返しをしようかな♪)
「では行くゾ『インフェルノ』」
「いっちょやったるのだ!『プロミネンス』」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!お前らそれはやりすぎだ!」
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!?」
――こうして帝国城謁見の間付近でゲイトの叫び声と共に大爆発が起こった。
「くそ……なんで我がこんなことを……」
アルヴィエはブツクサ言いながらも瓦礫の撤去作業をしていた。
「陛下がやれと命令したのだ……故に陛下にも手伝ってもらうのだ……」
「大体オ前が手加減しないからだロ……」
「イグナス。お前が言えたことじゃないのだ……」
「お前らなぁ……ふつうその規模の魔法使ったらどうなるかぐらいわかるだろ!!」
責任を押し付けあうシグマとイグナスを咎めるアルヴィエだった。
一方その頃、ゲイトはと言うと……。
「あんな大爆発の直撃受けといてよく無事でしたね!?」
「あんな程度じゃ俺に傷はつけられない!!」
「はいはい、威張ってないでさっさと入院してくださいねー。」
「いつつ……」
仕返ししようとした天罰を食らったゲイトであった。