死地帝国記
 

第二話「ゲイト、帝国軍に入隊する」

列車が出発した後に窓から外を見たら見覚えのある光景が広がっていた。まさかまたこの景色を見れるとは思ってなかったな。

懐かしいものだ。あの時は何もかもが新鮮に見えていた。まるで今の今まで旅をしていたかのような感覚に陥る。
だが、それと同時に少し寂しい気持ちにもなった。もう二度と戻れない故郷を見ているようで……。

そしてそのまま列車は進んでいき約10時間ほどで到着した。相変わらずここは人が多いな。いつも賑わっている印象だ。
さっそく街の散策を開始した。
すると偶然にも向こう側から一人の男が来た。あれは確か……皇帝陛下直属のシグマ=エル=アクリアさんだな。
久しぶりだなと思いつつも声を掛けた。

「おや、これはシグマ殿。お元気そうでなによりでございます。」
「おお!ゲイトではないか!!お前こそ壮健そうでなによりであるぞ!」

「ところでこちらの方はもしかせずとも……?」
「ああそうだ我が主の弟君、ソラヴィス様だよ。」
「そうですか。初めましてソラヴィス様。私めはデスグラード帝国第一位帝位継承者ソラヴィス様の養子にしてくれと言う依頼で参った者でございます。」
「おー。君がそうなんだね?確かになかなかの実力の持ち主であることが雰囲気からわかるよー。」
「ありがとうございます……」



〜10日後〜

皇帝陛下との謁見が終わったあと俺は早速例の養子について考えることにした。

まずは帝国の軍に入ってみるのが良いだろうなと考えたもののやはりどう考えても身元が割れてしまうし仮に帝国に入れてもらえてもすぐに追い返されてしまう可能性があるしむしろ反逆者として捕まってしまう可能性もゼロではないだろうと思ったため断念した。
次に傭兵として働いてみようかとも思ったのだがどこの国もあまり良い顔をしなかったりそもそもソラヴィス様の養子になったばかりなのに他の国へ行って仕事をするのは良くないだろうと判断したためにこれもまた却下となった。

色々考えていたが結局結論としては取り敢えずデスグラード帝国軍に入隊し訓練生となって学ぶことにした。
入隊試験の結果はすぐに出たが、どの分野においても全てにおいて最高水準を叩き出したということが判明しただけで特に何も起こらなかったようだ(ちなみに年齢も18歳ということにされた)。


そして1ヶ月後のある日、俺のもとに皇帝陛下から呼び出しがあった。何か不手際でもあったのかと思って急いで行ったがそこに居たのは皇帝陛下だけでなくもう一人いた。
どうしてこの方がと思っていると皇帝陛下が口を開いた。

「あぁすまない。実は今日はこの方を君の護衛につけてもらおうと思って呼んだのだ」
「えっとそちらのお方というのはもしかしなくてもシグマ=エル=アクリアさんでは無いでしょうか!?」
「うむ。よくわかったな。流石だなゲイトくんと言ったところかな?」

いやまあそりゃ分かるって普通に……。だってあの人親友だし、あんな目立つ格好してる上にめちゃくちゃ強いもん……。でもなんでそんな人が護衛につくのだろうか……。
すると今度はシグマさんが話し始めてくれた。

「実はだな、最近我の部下が妙な噂を聞いてな、その噂がお主を帝国から追い出そうという噂なのだ……。調べたら信憑性がかなり高かったから我がお主を護衛することにしたのだ!」

……なんだと……?ソラヴィス様の養子となる俺を追い出そうとすることはソラヴィス様への反逆に等しい……。そんな奴がいるとは許せないな。そいつらが誰かわからないけど、見つけ次第始末しなければ。

「一応聞いておきますがその部下が確認した相手はどのような者なのでしょうか。」
「ううむ、それがな……名前は分からないが黒いマントを着た者たちだという話だ。顔も見たことがないらしいのだ……。」

……っ!それは確実に魔装族ではないですか!!!それなら尚更探して殺さねばなりませんね。というかシグマさんの部下なんで敵に直接聞いているのか……。聞かれて話す敵も敵だが。

「そうでしたか。教えていただきありがとうございます。これで安心して任務に取り組めそうです。」

それから暫く雑談した後、部屋に戻ることにした。
与えられた自室までは結構距離があるな。まだ日が出ているうちに帰りたいからな。少し急ぐことにするか。

「ところでお前に一つ聞きたいんダガ……先程デスグラード帝国軍に入ると言っていたよナ?どういうことだ……?」

確かこの方は……イグナス様だ。あれ聞かれていたんだ……全然気配を感じなかったぞ…… まあいいか。別に隠すことでもないしな。

「私は元々孤児だったのですがソラヴィス様に拾われまして養子になってほしいと言われたのですよ。」
「なるほど……そういうことカ……道理で戦闘力が高いわけダ……」
「そう言うことですので。失礼します。急ぎの用がありますので!!」
俺は怖くなって思わず全速力で逃げてしまった。


〜帝国城内 ゲイトの部屋付近の廊下にて〜

「おいゲイトォ。何やってるンダァ?早く来イィッ!!!」
「ひぃいいいっ!すみませんでしたー!」

(ふうぅ、やばいなぁあいつマジ怖ぇー……。ん?)
なんか今聞こえてはいけない声がしたような気がするんだけど気のせいだよなうんきっとそうだよし帰ろう。

「おいこら待テェエエッ。」

あ、やっぱり幻聴じゃ無かったみたいですねはい、わかってましたとも…… 俺はそのままイグナスに襟首を掴まれてしまった。そしてドナドナされていくのであった……。


「ああぁもう、わかりましたから離してくださいよぉ〜」

「おお、そうだったナ悪かっタ。」
「いえ大丈夫ですよ。それで僕を何処に連れて行こうとしているんですか?」
「我についてこいヨォ。お前に見せたいものがあるノデネ。」
「わ、分かりました……。」

(ううううううううう、怖いよう……。)


***


俺が連れていかれた先は格納庫のような場所だ。そこには大きなロボットがいた。

「う、うおおおおっ!!!これってもしかして!?︎すごい凄すぎるうぅうう!!これは一体なんという機体なんでしょうか?」
「ふム、こいつは『アルファ』という名だ。我が作った傑作機の一つだゾ!どうだいカッコ良いだろう?」
「はいとても素敵だとおもいます!本当に素晴らしい出来栄えだと思います!!流石はイグナス様だぁああっ!!!」
「フハハッ。そう褒められると照れるではないカっ!だが、まだまだ改良の余地があるしもっと美しく洗練されたものを作りたいと考えているのダ。だから今はこんな感じなのだがいつかは我の理想を詰め込んだ究極のロボットを作るつもりナノダッ!!その時は是非お主にも乗ってほしいと思っているのだがどうかな!?」
「え、ええええええええ!!!!??」

(嘘だろ!?俺にこれを操縦しろってのか!?!?無理に決まってるだろ!?!?でもその話聞いた以上断り辛いじゃないか……。くそ!やるしかないのか……!うう、やりたくないのに……。でも流石に命には変えられないしな……。仕方ない……。
それにしても美しいフォルムだ……。特にこのバックパックがすごくカッコイイんだよな……。……あれ?この肩にあるマークってどこかで見たことがあるな……。どこだっけ……。確かこの世界に来たばかりのころ、魔王様に拾っていただく前に助けてくれた方に同じようなものが……。……まさか……?そんなはずはないよな……?……そんなことを考えながらその機体は静かに佇んでいた……。


ソラヴィス様の養子になって約一年が経過した。

今日は久しぶりの休暇の日なので街に行くことにした。
今までずっと城にいて外に出ることができなかったからな。

「やっと外に出ることができるな……。楽しみだな……!」
最近あったことを色々思い返しているうちに帝国城の検問に着いたようだ。

「……身分証明書を提示していただけますか。」
「はい。」
「確認いたしました。ごゆっくり楽しんできてくださいね。」
「ありがとうございます。」

そうして街に出た。

「さて、まずは何をしましょうかね……」

そういえば昨日読んだ新聞に面白いことが書いてありましたよね……確かこの本によると新しい技術が発見されたとか……ううむ……気になりますねえ……。まあそれは置いておいて、服を買いに行きませんか?一応男物の服を数着持っていなかったですしね……あれ?私は今誰と話しているんでしょう?……後ろを振り向いても誰もいないじゃないですか。おかしいですね……

「……おい、無視をするな。」
「……ひっ!?」

(……やばい……誰かにつけられていたようでしたか……?)

「……お前は何者だ。何故我をつけてきた。」
「……ふん。俺が何者かなんて関係ないことだ。俺はただ命令に従っているだけだからな。それより貴様のことは知っているぞ。何でも養子になったらしいではないか。しかも皇帝陛下のお気に入りだそうだな? ということはつまり、我らの敵ということ。ここで死んでもらう。恨まないでくれよ?これも仕事なんだ。悪く思うな。行くぞ。殺れ。『アックス』」

(『殺せ』、だと……。ふざけやがって……。何が殺すだよ……。何が恨みに思わないでくださいだよ……)

「……おイ」
「なっ!?」

慌てて振り向くとそこにはイグナス様がいた。しかしいつもと違いかなり怒っているような雰囲気を出していたのである。

「オ前らァ……どういう了見だヨォ!?我の臣民に手を出すとはナァ!?許さんゾ!?」
「……ちっ、見られたか……。お前を生かすわけにはいかない!行け、『アックス』」

(くそ!最悪だ!!よりによってこんな奴らに見つかるだなんて……!)

「フッハハッ。イグナス=デスグラードの名において顕現セヨ!我が敵を滅ぼセェ!!『デモンエクスプロージョン』!!」
「「ぐわああぁ!!!」……は!?速すぎて全く見えませんでしたよ!!それにこの威力って……もうなんでもありなんですね……。というかさっきのセリフカッコよかったな……。僕も言ってみたいかも!よし!練習しよう!!僕は『死ねぇ!』『え?』……あ。声に出してしまったようだった……。恥ずかしい……。でも少し嬉しいと思ってしまう自分がいますね……。これは一体どうしたらいいものでしょうか……?」
「ふう。とりあえずこれで大丈夫ダロウ。だが、まだまだ改良の余地があるのダ。次はもっと改良を重ねて美しく強くそして芸術的にカッコよくしたいと思うのダ!フハハッ!!」

(やっぱり凄いなぁイグナス様は。あのロボットをあれほどまでに改良するだなんて。俺も負けていられないな!! よし、これからも頑張ろう!!)