死地帝国記
 

第一話「ソラヴィス、養子を求める」

――帝暦1300年4月15日 帝国城第二ラウンジ

「うにゅう~」


 今日もソラヴィスはのんびりしていた。帝国宰相としての仕事を終えた上である。

「ソラヴィス様、少々お時間よろしいでしょうか?」
「いいよ~」

「お休みのところ失礼します。」

そう言ってアザルはラウンジに入室した。

「何かあったの?」
「はい。実は帝国の西の方で巨大な魔力反応を確認しました。これは……間違いなく魔装族です。しかも複数の反応を感じます。そしてこの世界に存在しないはずの未知の力も存在しています。私はこれの調査のためこれより地上に向かいたいと思います。」
「それは問題ないけど一人では行かせられないかな。僕の部下を付けるから誰か選んで。誰にするんだか……。」

アザルはこの調査のために優秀な部下を多数選出しており、その中には勿論機装兵の部隊も含まれていた。
また今回の件にはSクラスの人員が必要なためそれも考慮しているだろうと思われた。
なので今回連れて行く人を選ぶ必要があるのだ。
そこで僕はある人物を思い浮かぶ。
(あぁ……やっぱりね)

「分かったんだよ。今回はゲイトを連れて行って欲しいと思うんだけどどう思う?まあ拒否権はないけどね。でも大丈夫なのかな?彼はまだ完全じゃないよね。」

僕の予想通りだったようだ。
正直心配ではあるが彼の戦闘能力を考えると連れて行った方が良いと思ったからだ。
それにいざとなったらその辺にいる人に記憶処理して逃げれば良いだけだし。
しかし完全にではないことも事実だ。
だから保険をかけることにした。

「一応あの人に頼んでおくとするよ。『お願い』すればきっと何とかしてくれるはずなんだからね。あと今のうちに準備しておくといいかもね。あっ!それともう一つ報告することがあったんだったんだぁ!」

僕はもう一つの重要な用事を思い出した。

「はいなんでしょう?」
「うん、帝国北方の森ではぐれていたオーガキングを見つけたんだ。保護しようとした時に襲われかけたけどその時たまたま近くを通りかかった冒険者が助けてくれたみたいなんだよ。それで彼に話を聞いたら魔物に襲われた時に召喚魔法を使って呼び出されちゃったみたいらしいんだってさ。何があったのか詳しい事情を聞いたんだけどよくわかんなかったんだ〜。とりあえず今は北の同盟国に滞在してるらしくて近いうちに会えるはずだよって伝えて欲しいと言われてるからよろしく頼むね。」
「分かりました。確かに承りました。」


「うにゅう~」

そしてソラヴィスはまたのんびりし始めたのだった。


――――――


<場所は変わり帝都近郊の都市にて>

――帝暦1300年5月16日
 ここ最近色々ありすぎてすっかり忘れていたが俺は魔王様に頼まれていたことを思い出したのである。………….と言うことで俺らは一旦帝都に戻り皇帝陛下に謁見することになったのだが流石というべきかやはりと言ってもいいかは不明だが大歓迎された。
やっぱこの人はすごいお方だと改めて思った。

後相変わらず城の内装は綺麗だがどこか禍々しい感じがするのは気のせいだろうか。
そんなことを思いつつしばらく待つことになり玉座の間に入るとそこには意外な人物が待っていた。

皇帝陛下で在らせられるアルヴィエ様が居るのはまあいいとしよう。それよりも驚いたことが一つあるのだ。

皇帝陛下の隣に立っているのは何者であろうか? 皇帝陛下と同じく黒い髪に赤い目。
少し幼い印象を受けるが顔立ちは整っている。
まるで皇帝陛下をそのまま子供にしたような存在。
とても美しく可憐である。
ただその瞳はとても冷たい光を放っているように見える。

年齢はおそらく皇帝陛下より下だと思うが魔王軍の関係者であることは間違いないだろう。

皇帝陛下はこちらに気づくとその少年の肩を叩く。
すると皇帝陛下が口を開くと同時に隣の少年も喋る。

「紹介する。私の弟のソラヴィスだ。今日は弟も共に会いたいと申してな……。迷惑でなければ同席させたいのだがよろしいかな?」
「はい、勿論でございます。」
「そうか、それは良かった。では席に着くがよい。」

そう言ってソラヴィスはソファーの方へと移動するのである。
ちなみにこの部屋には他にも何人か帝国の重鎮と思われる人達がいるがみんな一様にして驚愕の表情を浮かべているのである。

どうも皇帝の弟君の登場とあって皆驚いてるようであるが、一体どういうことなのだろう? しかもただの兄弟愛を育むだけならこんなことはしないはずであるから余計疑問が残るばかりであった。
しかしまあ今はそれどころではなく早く本題に入りたいところなので取り敢えずこの場を切り抜けることに集中したほうが良さそうである。

こうして我々は会議を始めたわけなのだがその前に自己紹介から始めることになった。
まず最初に発言したのはソラヴィス様の方だ。

「僕の名前はソラヴィス=フォン=デスグラードと言います。以後、お見知りおき下さい。一応これでも帝国の第一位帝位継承者です。それと皆さんには謝らなければなりません。実はこの度、ゲイトさんを養子に迎えたいと思いまして、勝手ながらご挨拶させていただきました。どうか僕の我がままを許して頂きたく存じ上げます。」
「おおっ…….なんとありがたき幸せ。」
「素晴らしい!」という声が上がる中で俺だけは驚愕した表情をしていたと思うのだった。
「そしてもう一つ言いたいことがあったな……」

と思い出したように話し始める皇帝陛下のその言葉を聞いた瞬間周りの空気が変わった気がするのであった……。


***


<回想シーン>
(僕は皇帝陛下の弟だ)
(僕が次期皇帝になるんだ)

――――――

「兄上!お願いがあるのです!」
「なんだ、お前からとは珍しいではないか?」

アルヴィエは微笑み返す。
普段から物怖じせずに自分の意見を言うタイプの為、頼み事をしてくることなどほとんど無いからだ。

「はい!僕の信頼できる仕える人を探そうとおもいます!」
「ほう、その心は?」
「帝国のために私は知見を広げたいのです。それには独学ではダメだと考えています。なので魔界から僕に仕えてくれそうな人を探したいのです!そこでお願いしたいことがあるんですけどいいですか!?︎」

アルヴィエは考える。
確かに自分はまだまだ若い。
この国を引っ張っていくために今からもっと精進しなければならぬ。
そのためにも弟には自分の理想とする国家を作って欲しいという思いはある。

そして自分が信頼している臣下はあと数人程度しか居ない。
これから先増えていくかもしれないが今の段階では正直な所いないのである。

「わかった。だがあまり時間がないぞ?1年を待たずに次の年を迎えてしまう故、来年くらいまでになってしまうが良いのか?」
「はい、問題ありません。僕は十分満足していますので是非ともよろしく願いします。」
「うむ、分かった。ところで誰にするのだ?」
「それはもう決めているのですよ。」
「ほう、どんな奴か聞かせてくれるかね?」

そう言うとソラヴィスは一呼吸置き真剣な顔で答える。

「魔王軍四天王のゲイトさんに頼んでみるつもりです。彼ならばきっと引き受けてくださるとお考えになりました。あの方は仕える方には絶対の忠誠を誓う方だと聞いておりますし実力も申し分ないとか。」

アルヴィエは少し考えて言った。

「なるほど良い判断だな。よし、その者にしよう。名前を教えなさい。私が手紙を書く故に。」
「ありがとうございます。では失礼いたしました。また後日連絡致します。それでは。」

そう言ってソラヴィスはいい笑顔で礼をして退室した。

「ふぅ、これでやっと肩の荷がおりるな。まさか魔王軍の四天王に頼むことになるとはな。まあ、それでも大丈夫だろう……。」

そうしてソラヴィスは部屋から出ていき会議室へと向かったのであった。


***


「という事なんだ。ゲイトにこの文を届けてほしいんだけど、お願いできるかな?」

ソラヴィスがゲイトを養子に迎えたいことを使節に説明した。

「分かりました。お任せくださいませ。偉大なる皇帝陛下のご期待に応えるよう努めさせていただきます。必ずや成し遂げて見せましょう。」
「本当にありがたいことだ。こちらこそ頼りにしているよ。何か褒美を与えなくてはならないな。何が望みだね?」
「いえ、滅相も御座いません……私など恐れ多いです……」

「まぁ無理に褒美を与えるのも無礼か。本日はご苦労であった。部屋を用意してあるからゆるりと休まれていかれるのがよいだろう。」
「ご配慮くださりありがとうございます。ではこれで私は失礼いたします。」



〜6日後〜

 俺は魔王城にて今日も仕事を始める。
最近では魔界も大分安定してきて俺の仕事もほとんど無くなったと言ってもいいだろう。(一応書類整理等々はまだ残っているが……)

そしてそんな日々の中、最近とても気になることがあった。

何故かデスグラード帝国第一位帝位継承者であり皇帝陛下の弟君であるソラヴィス様の養子になって欲しいと皇帝陛下より文が届いたのだ。全く意味がわからないため俺は混乱していたのだが取り敢えず承諾することにした。
なぜ急に来たのか理由を知りたかったからである。
ただただ困惑しながら返事を書いて送ったところ翌日にはその事が帝国の新聞の一面に載っていた程だったらしく更に驚いたものである。

因みに養子になるとどのようなメリットがあるかというとその国のトップの血縁者になるのだから大きな権力を得られるというものらしい。
しかし、本当にそれで良かっただろうかと考えている。

実は俺には昔から一つだけ誰にも言っていない秘密がありそれが一番の問題であった……。
実を言うと俺ことゲイトはこことは別の世界から資源調査に訪れた、いわば偵察兵だったのだ。何故そのような事になっているのかについてはまだ話せないが……。
その世界の国家体制は主に君主制であるが俺がいた国は民主制に近い感じだったなぁ……。
そこで働いていたある日の事、この世界に資源調査の名目で派遣された。

その時は別に何とも思わなかったがのちにこの星に捨てられたのだと気づいた。絶望していたその時魔王様に拾われた。その後魔王軍四天王に抜擢されて今に至るというわけだ。そういう事情もあって自分の本当の身分を明かすことは全く躊躇わない。たとえ勇者でも容赦しない。
つまりこんな素性の知れない者を雇ってもなんの利益もないはずだしましてやその親となるなど絶対にありえないことだと思っていたからだ。それにそもそも何故自分なのかも謎でしかない。

そう考えた結果とりあえず帝国に行くことにした。もし駄目なら断ればいいだけだ。

そんなことを思いながら帝都行きの列車に乗ったのであった。